東スポを超える日本一のタブロイドを目指す!(笑)
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日本の大学で法学教授を務めているアメリカ弁護士の立場からみて、京都大学入試問題を試験中にインターネットに投稿した事件による19歳の容疑者の逮捕はどう考えてもおかしい。

 大学の教授会では毎年数回、期末試験後にカンニングペーパー等の「不正行為」の事件が審議される。この類の不正行為に対する大学の処分・処罰は極めて軽い。アメリカの大学であれば自動的に除籍されるが、日本の場合その対象科目の不合格・やり直しで終わってしまう。私はよく教授会で「不正行為に対する処罰が軽すぎる」と文句をつけている。

 こうした日常的な不正行為を起こした学生について、大学側が110番をかけて警察に犯人を逮捕するよう求めたら、警察はそれを笑って相手にしないだろう。しかし今回の事件については、警察は徹底的に捜査を行い、「偽計業務妨害」という犯罪の疑いで容疑者を逮捕した。学内の行政レベルで止まるはずの問題であるのに、不思議と大々的な刑事事件に化けた。

 今回の事件は普通のカンニングペーパー、試験中の「情報交換」と本質的に全く変わらない。手段が携帯電話だったこと、大学が名門大学だったことは、法律の面では全く関係ないはずだ。だとすると、カンニングペーパー全般も刑法上の重大な「犯罪」である、という結論は避けられない。首を傾げざるをえない、一般常識からかけ離れた結果となる。

 容疑者が犯したとされている刑法233条は「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と短い条文で、警察は入試不正行為が「偽計を用いて」京都大学の「業務を妨害した」疑いを根拠に逮捕したそうだ。

 この法律とその関連判例を調べると、その趣旨は明快だ。例えば、平成15年に最高裁は、コンビニで買ったジュースにわざと洗剤を加え、ジュースに「異物」が入っていると警察に通告した被告人の行為は刑法233条に該当するという判決を下した。つまり刑法233条は不真実の情報(嘘、噂、やらせ等)を言いふらして、他人の「業務」(特に商売)を妨げようとする行為である。商業上の名誉毀損に近いものであり、入試不正行為とは全く関係ない法律だ。

 もっと調べると、警察と検察はこの条文に含まれている「偽計」と「業務妨害」の用語を切り取って、拡大し、全く違う内容の便利な道具として利用してきていることが分かる。警察・検察が、自分たちなりの解釈により、「不正」と思われる手段を使った他人の「業務妨害」は幅広く「犯罪」として扱うことができている。

 目立つ例を取り上げると、平成16年の君が代不起立事件がある。都立高校で国歌斉唱時に、元教職員が保護者らに着席するよう呼びかけたことまで、この法律により「犯罪」になった。卒業式が2分程度遅れたことは「業務妨害」に当てはまると解釈された。

 警察・検察がこれだけ「柔軟」に法律の条文を解釈し、自分の裁量と解釈によってさまざまな行為に都合よく使える国は法治国家だと言い難い。

 法の支配という理念を遵守すべき大学、報道機関が今回の逮捕、刑事事件扱いを疑問にしないことも気になる。それどころか報道機関は必要以上の報道によって予備校生を必要以上に追い詰めたのではないだろうか。今回の逮捕が最悪の事態を考慮した予備校生の身柄確保という名目もあるというが、そもそもこの事態は被害届の提出、過剰報道によって人為的に引き起こされているのだから、おかしい。

 今回の不正行為は毎年無数に起こる不正行為と本質的に全く変わらない。警察はなぜこの事件だけに目をつけて、刑事事件にしようとしているのだろうか?

スティーブン・ギブンズ(外国法事務弁護士・米NY州弁護士)
※2011.3.10 asahi.com
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